舞台と登場人物

映画の舞台

新潟県の長野県境に近い豪雪地帯。十日町、松之山、津南、上越、長野県栄村などが映画の舞台です。度重なる合併で、現在は十日町市、上越市となったが、元々はそれぞれ独自の文化を誇る村々。この一帯は一般に「妻有(つまり)地方」と呼ばれ、3年に1度の世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の舞台としても知られています。近年は都会からのIターン移住者も多いそうです。

登場人物

木暮茂夫さん(こぐれ・しげお)

14年前(2002年)に東京から中立山(なかたてやま)集落に移住。1990年代は世界を股にかける報道写真家として活躍する一方、新宿のダンボール村のコミュニティー作りに深く関わる。そこで知り合った小林茂監督の協力で、写真展「米一合キャラバン “あなたの町のものがたり”」を新潟で開催。来場者は入場料の代わりにお米を一合ずつ持ち寄り、それで炊き出しをするという、米どころならではの写真展に。稲作の現場をしっかり見ておきたい、と帰路で偶然出会ったのが現在住む中立山。その後、古民家を譲り受け自分で修繕をする中で必要に迫られ茅葺職人としての修行を積むことになる。また、次々と手放されて荒れ果てていく目の前の棚田を放っておけず稲作も始めた。ちなみに、木暮さんと妻・孝恵子さんの暮らしのルールでは、猫の「たま」を抱いているほうに優先権があり、相手に「お茶!」と言えるらしい。

松本英利さん(まつもと・ひでとし)

兵庫県西宮市生まれ。27年前(1989年)、妻・文子さんと共に十日町に移住。 夫婦で十日町高等職業訓練校に通い、工芸織物科及び染色工芸科を修了。その後、津南に移住し、「染織工房 緑風舎」を立ち上げ、地元で採れる植物を 使っての草木染めから、機織りまでの全ての工程を二人でこなしている。 主として絹糸を用い着物(紬)、マフラーを製織。1998年日本民藝館展入選。長女の季実子さんの成人式に仕立てた着物は夫婦合作で制作した、桜の花びらが 舞い散る模様の絣織物(桜の小枝で染色)です。劇場前売券特典の「栞」は、映画のために松本さんが染めた絹糸を使った、それぞれ同じものが二つとない1点ものです。

天野季子さん(あまの・ときこ)

埼玉県出身、新潟県十日町市在住。大学卒業前に独学で唄いはじめ、東京や島、ギャラリーを中心にライブ活動を行う。7年前(2009年)、十日町に移住。学生時代からボランティアとして参加していた新潟県十日町市と津南町で2000年から行われている「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」の拠点施設となる「鉢&田島征三絵本と木の実の美術館」立ち上げスタッフとしてNPO法人越後妻有里山協働機構に入社。映画に登場する天野冬話(とわ)ちゃんの母。以後は、集落での暮らしの中で聴こえる音をたよりに創作を続ける。移住から現在まで紡いできた音の集まりが、この映画のテーマ曲「めざめのとき」となった。

佐藤富義さん(さとう・とみよし)

屋号は権兵衛さん。幼い頃から歌謡曲が大好きで、一時は歌手を目指したこともある。体は小さいながらも若い頃から筋骨隆々で、毎年春には田植え職人として上越などの平場の田んぼを回り、荒稼ぎをしていた。今でも細々と農作業を続けながら、妻のスミエさんと二人で暮している。雪下ろしの手伝いをする地域おこし協力隊の若者や木暮さんは、そのお礼にと自慢の歌声とスミエさんのラーメンをいただくことになる。スミエさんの作るラーメンはプロ顔負けの美味しさ。権兵衛さんの歌好きは年を経ても変わらず、まだまだ現役のレーザーディスクカラオケで毎日歌っている。近所に作られた滞在型文化施設「オーストラリア・ハウス」のオープニングの際にもお座敷がかかったという、地元を代表する有名人。

倉重徳次郎さん(くらしげ・とくじろう)、倉重ノブさん

屋号は長作さん。一族は、清水が滔々と流れ出る山際に約300年前に移り住んできた。以後代々「長作」の屋号を受け継ぎながら暮してきた。若い頃は木の板を材料に屋根を葺く「木羽(こば)屋根」の職人であり、職人を何人も引き連れ、この地域一帯の木羽屋根葺きを一手に引き受けていた。妻のノブさんは若いころ東京の「久月」で人形の頭植え職人の修行を積んでいた。師匠に目をかけられ、あともう2ヶ月で免状がもらえるはずだったが、徳次郎さんとの結婚話を進めたい親族の思惑により帰郷を余儀なくされる。「ハハキトク」との電報を受け取り慌てて帰郷したところ、母は健在。すべては母の策略だったという話は本当らしい。長作さんは、青原さとし監督の映画『雪国木羽屋根物語』(2005年/30分)に主演しています。